<森羅万象を統べる原理
と二分法>
人類はその歴史の中で、この世の森羅万象が起きる原理を理解しようと努めてきました。その時に好んで使われたのが二分法、つまりものごとを二つの相反する軸によって整理・分類し、全体を把握・判断する方法です。
二分法には善と悪、光と闇など様々なものがありますが、中でも最も成功したと言われるのが男女を軸に分類する方法です。おそらく人々にとって、世界で最も大きな神秘は生命の誕生とそれを生み出す男女という二つの性だったのでしょう。ですから男女を軸にすることは自然なことだったと思われます。
世界には女性神と男性神が一緒に国産みや世界の運営をするという神話がたくさんあります。
おそらく人々は、男女の身体の違いや行動の観察を元に「女性的なもの」と「男性的なもの」を分類しました。それが「女性性」と「男性性」です。一般的にはソフトなイメージ、たとえば「やさしさ」は女性性、そしてハードなイメージ、たとえば「強さ」は男性性とされています。(ただし数千年続いてきた家父長制社会の中で、男性が自分たちにとって好ましい特性を「男性性」としてきたという事実もあります)
イザナギ・イザナミ (日本)
二分法では、直接人間や男女にあてはまらないものであっても、便宜的にどちらかに振り分けられることになります。人間的なものを感じさせないので、それらを「女性原理・男性原理」と呼ぶ人たちもいます。たとえば「包含」は女性原理、「切断」は男性原理です。
神話の中の女性神が象徴するのも女性原理(母性原理)、男性神のそれも男性原理(父性原理)と呼ばれることが多いようです。
シバ・パーバティ(インド)
古代中国では宇宙の原理を説明する陰陽思想が生まれましたが、こちらも「陰=女性原理」「陽=男性原理」として理解されています。
陰と陽は相反するエネルギーですが、互いに影響し合い、入れ替わりながら万象の生成と変化を生み出します。そして陰と陽が調和することではじめて自然の秩序が保たれると考えられていました。
日本の古神道にも、男性原理を「火」、女性原理を「水」とし、両者が統合することで万物を生み出す力が生まれるという思想があります。
このように日本をはじめとする東洋では、男性性(原理)と女性性(原理)の統合・調和によって繫栄が生み出されると理解されてきました。
一方ヨーロッパでは「男性原理(Masculinity)」を「女性原理(Femininity)」より高等な特質として上に置く「ヒエラルキー的二元論」が発達しました。近代科学や経済を生みだしたヨーロッパの意識の根底に、自然を女性的なものとして下に見るこの二分法があり、それが今日の環境の危機の遠因となったのではないかという批判があります。
このヨーロッパの男性性優位の思想の形成については「歴史の窓」で詳しく書いていますので、そちらをお読みください。