第3章)近代から現在
ハイパー男性性の西洋近代(15世紀以降)
【ざっくり背景説明】
11~13世紀まで聖地エルサレムの奪還を目指して行われた十字軍は失敗に終わり、ローマ教皇と軍を提供した封建領主たちの力は低下します。これによって各国の王たちは力を取り戻し(絶対王政の完成)、次に海外に乗り出します(15~17世紀の「大航海時代」)。そして、まずは侵略によって他国から金銀を奪い、後には東インド会社のような特権商人を通して貿易による利益を得たのです。この世界規模での貿易によって、都市部で豊かなブルジョワ層が形成されます。
一方十字軍は文化、思想面でもキリスト教ヨーロッパに大きな影響を与えます。イスラム世界から逆輸入されたギリシア・ローマ時代の文献は人々に衝撃を与え、それが、「神の絶対的秩序」と「原罪を背負った罪深い人間」いうキリスト教の世界観を否定し、人間性の解放を追求する運動(ルネサンス)となって、14世紀のイタリアから拡がっていくのです。
こうしてヨーロッパは本格的に大変革の時代に入ります。16世紀初頭には「教会はいらない。必要なのは聖書だけ」と訴えるグループ(後にプロテスタントと呼ばれます)が分離します(宗教革命)。16~17世紀には実験や観察を元に自然の法則を明らかにしようとした「科学革命」。17~18世紀には「理性による知によって民衆を無知から解放する」とする「啓蒙思想」が市民革命を引き起こし、各地の絶対王政を倒します。これらの運動は「理性」「合理性」「細分化」「自立」「力」などの男性性の意識によって成し遂げられたのです。
また世界規模の貿易が盛んになると、「富」は「土地と人」ではなく「金銀や貨幣」に変わっていきます。農村共同体の衰退と都市での富の蓄積、そして自然を単なる物質と考える科学技術の発達によって、18世紀後半から19世紀には石炭を動力とした大規模な工業化がイギリスから始まります(産業革命)。そして時期を同じくして、産業経済を支える本格的な経済理論もできあがるのです。
ヨーロッパの近代化は、自然から離れた都市部のブルジョワ層が、土地ではなくカネという富の増大を図った歴史と見なすことができます。そしてそれを支えたのは強い男性性の意識でした。
自然を生命のない機械とみなすことで発達した科学技術と資本主義経済がもたらした圧倒的な技術力と自由市場の発達。この「ヨーロッパの近代化モデル」は、「拡大」「「覇権」「競争」「効率」などの男性性を一層強化しながら世界に拡がっていきます。
それではヨーロッパ近代で起こった変革を、男性性と女性性の観点からもう少し詳しく見ていきましょう。