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近代の申し子 資本主義>

資本主義とは

この項は、まず資本主義経済とは何なのかについて始めなければなりません。

 

できるだけ簡単に言うと、おカネ(資本)をもった個人がモノを作るために設備をつくり、そこで働く人たちをおカネで雇い、作ったモノを生産に使った以上のおカネで「市場」で売ることで利益(新たな資本)を得ようとする経済システムです。現在私たちが「あたりまえ」「これしかない」と思っている経済のことで、18世紀後半に始まる産業革命時に確立しました。約200年前のことで、意外と新しいものなのです。

 

資本主義がモノを生産するために必要な要素が三つあると言われています。 ①土地(資源・設備)、②労働者、③資本(貨幣)です。これらの条件が整わないと資本主義経済はできません。ですから産業革命までの近代ヨーロッパは、この条件を整えるための準備期間だったと言うことができます。

 

それでは資本主義が確立するまでの流れを簡単に振り返り、資本主義が内包する男性性について確認しましょう。

中世の経済

中世ヨーロッパの大部分は荘園を中心とした自給自足的農業を中心としていました。領主にとっては豊かな「土地」と多くの「農奴」を持つことが富の源泉でした。農民たちは家族単位で耕作地と共有地を使って作物を作り、年貢を納めるほかは自給自足の生活をしていました。万一余剰の農産物が出ても、それは近隣で売られるだけの閉鎖的な経済だったと言えます。

資本の蓄積

ところが12世以降、十字軍に参加した人たちの中から「余った作物を遠くで売ればカネになる!」ということに気付く者が現れ、商人が発生します。彼らは集まって中世都市をつくり、金銀や貨幣という富を蓄積していきます。都市では鍛冶、織物業などの手工業も発達していきます。一方荘園内にも貨幣経済が持ち込まれ、農民の中には豊かになって土地や家畜、農具を所有し、事実上自由に農業経営をする者が現れます。

フィレンツェをはじめとする都市部の豪商が蓄積した富がいかに莫大なものだったかは、14世紀のルネサンス期の素晴らしい芸術や建築の数々を見ればわかるでしょう。それらはみな、メディチ家のような豪商たちが芸術家や技術者のパトロンとなってできたものでした。ガリレオのような自然科学者もパトロンであるメディチ家を喜ばせる「発見」をする必要がありました(たとえばガリレオは発見した木星の衛星を「メディチ星」として「献上」しています)。このことは、初期の科学が商業に役立つことを求められていたことを示しています。

15~17世紀の大航海時代に入ると、豪商たちは国王たちと結びついて南北アメリカをはじめとする世界各地から金銀を収奪し、オランダ、スペイン、イギリスなどの絶対王政を経済的に支えます。彼らは自らの利益の増大を求め、貿易を軸にした巨大商業網と貨幣による「市場」を整えていきます。この段階ですでに資本主義に必要な「資本(カネ)」は十分に都市部に蓄積されていたのです。

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労 働 者

イギリスでは貿易でよく売れたのが毛織物でした。毛織物を増産するためには多くの羊を飼う必要がありました。そのため16世紀には商人と領主あるいは自営農民が、貧農たちの生活の拠り所であった共有地を柵でかこって羊を飼い始めます(囲い込み)。

 

実は、中世後期から近代初期のヨーロッパは不安的な気候と疫病(ペスト)に悩まされていました。異常気象による不作は貧農たちを直撃しますが、自らが食べるものを調達していた共有地が囲い込みによって奪われたことで貧農たちは困窮します。その上異常気象は魔女のせいだとされ、共同体内での密告が常態化。このため、農村共同体は一気に崩壊するのです(→ 魔女狩り)。そしてその多くが都市へと流れ、工場でわずかな賃金をもらって働く労働者となりました。こうして資本主義の必要条件のひとつ「労働者」が調達されます。

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土  地

残る要素は「土地」です。土地を「囲い込む」にしても設備を作るにしても、土地は自分のものである必要がありました。つまり封建制や絶対王政は邪魔だったのです。啓蒙思想が説く「自由・平等・個人の尊重」というイデオロギーは、こうした経済的なニーズにマッチしていたのです。かくて都市のブルジョワ層(豊かな商工業者と資本家)が中心になって起こした「市民革命」によって封建制度は倒され、個人が自由に「土地」を所有できる時代に入ります。

 

経済人類学者のカール・ポランニーは、「土地」を私有化して商品のように売り買いできるようにしたことが、資本主義を人間社会から離脱させた大きな原因であると述べました。土地はその上で人間が生きる条件を与え、文化と社会を育てる場であって、商品として売り買いされるようなものではないのです。人が人たる条件を次々と壊していく資本主義をポランニーは「悪魔のひき臼」と表現し、資本主義は(生命と)文化・社会を育む足元の大地から「離床した」と批判しました。

18世紀後半にイギリスで産業革命が起きた時、自然はすでに神性をもち生命を育む存在ではなく、いくら使ってもかまわない天然資源に変わっていました。また科学技術の発展は目覚ましく、石炭を動力とした大規模な機械工業が台頭したのです。モノの生産能力は格段に上がり、手工業は廃れて産業は大資本の下に集約されていきます。

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資本主義の男性性

このように資本主義は、ヨーロッパの経済の中心が生態系と関わりをもつ農業を離れ、都市部の商工業に移っていく中で生まれました。つまり資本主義には近代化を担ったものと同じ強い男性性が内在しているのです。一部は次項でお話ししますが、資本主義の男性性は経済に関する以下のような考えとして現れます。 < >内は男性性とされる意識です。

 

  • 自然に生命はなく、自由に使ってよい物質的資源と考える <生命の視点と女性的神性の喪失>

  • 自然と女性を経済理論の対象から外し、生命のない工業的な世界を一般化する <生命の視点の欠如>

  • 土地の私有化によって足元の大地から離床する <上昇・超越>

  • 誰でも自由に平等な条件で「市場」に参加できる <自由・平等・個の尊重>

  • 人間は欲望を満足させることだけを考えて行動する <利己的>

  • 経済の規模が拡大する(成長する)ことが人々を豊かにし幸せにする <拡大>​​

  • 富と人々の幸福度は(GDPのような)数量的な指標で測られる <数量的分析、合理性>

  • 生産能力を上げるために、とにかく効率を上げる <効率、合理性>

  • 文明の進化は機械技術の発達によってもたらされる。文明は 農業→工業化→商業化→(IT化)という過程を通って進歩する <進歩主義・直線的思考>

 

こうした男性性の資本主義(と科学)が成立する過程で、16~17世紀に大規模な魔女狩りが行われて女性たちが虐殺され、それが農村崩壊や男性専門家の台頭という形で資本主義の形成に貢献しました(→ 魔女狩り)。ヨーロッパがハイパー男性性へと向かう象徴的な事件だったと言えるでしょう。

 

産業革命以降いっそう強まる男性性の経済と社会の中で、女性はさらなる男性の支配の下に置かれるようになります。

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