ブータンの○○崇拝
更新日:2023年12月7日
引き続きブータンのお話です。
ブータンに行って絶対驚くのはなんといっても「コレ」でしょう。そう、「男根(男性器)」崇拝です。魔除けとして家の壁にも描かれています。
首都ティンブーの中央郵便局に入るやいなや、目に入ったのは棚の上にずら~っと並んだ木彫りの男根。 え?なにこれ!? でもその後、行く先々で男根の絵やオブジェと出会うことになるのです。
たとえばこれ。プナカという町では観光客用に「トイレはこちら」と、指さしならぬ男根による道案内(笑)。またレストランに入れば人間の背丈ほどある男根のオブジェがお出迎え! 若い女性スタッフがその隣で少し恥ずかしそうに笑いながら出迎えてくれた姿・・・写真に撮りたかったけれど、恥ずかしくて撮れなかった💦 でもトイレに置いてあった(飾ってあった?)オブジェの写真は撮りました! こんな感じ(笑)
「聖なる変人」ドゥクパ・クンレー
それにしても、なんでこんなことになっているのでしょう? 一般的には15~16世紀にチベットからやってきたドゥクパ・クンレーという僧が男根崇拝の元だと言われています。
彼はそれはそれは破天荒な遊行僧で、ブータン中を旅しながら、彼の男根の威力で各地の魔女や悪霊を調伏したというのです! たとえば男根を岩に突き刺して粉砕し魔女を降参させたとか、男根を悪霊の口に突っ込んで歯をへし折った、などなど。彼の男根からは「知恵の稲妻」がほとばしり出たといいます。
また彼は酒と女が大好き。悟りに至るために禁欲は必要ないと説き、特に女性たちをセックスによって悟りの道に導いたそうです。仏教では女性は仏にはなれないとされていますので、女性たちが「祝福」を受けるために彼のところに押しかけたのも無理はないでしょう。このため彼には「5千人の女をもつ聖人」や「子宝の聖人」というあだ名も与えられています。
こう書くとドゥクパ・クンレーは単なる酒好きで好色の怪しいお坊さんに思えますが、彼の仏法の理解は深く、高僧たちも感服するほどだったとか。彼は仏教僧たちの偉そうな態度や説法を嫌い、民衆に分かりやすい方法で仏法を伝えようとしたらしいのです。
様々な奇行にもかかわらず、今に至るまで親しみを込めて「聖なる変人」と呼ばれて愛されているのには、ちゃんとした訳があるのですね。
ちなみにプナカにはドゥクパ・クンレーを祀ったお寺があります。そのせいで男根の飾りがことのほか多いのでしょう。
男根崇拝と魔女
実はブータンの男根崇拝のルーツはもっとずっと古く、7世紀に仏教がブータンにやってくる以前からアニミズム的な土着信仰の中に存在していたことがわかっています。世界各地のアニミズム的な信仰では女神が中心的存在ですが、「豊穣」が重大事だった古代では、たいてい女神と男神がペアになっていました。その象徴として女性器や男性器を崇拝する所もたくさんあったのです。
仏教がブータンに導入されたのは、チベットを初めて統一したソンツェン・ガンポ王(在位593-638)の時ですが、それ以前は人の精気を奪う魔女が支配していたとされます。王はチベットを統一したあと魔女の力を封印するために、魔女のツボにあたる13か所に仏教寺院を造らせたそうです。
う~ん、これはまさに「よくある」女性性から男性性への移行の物語です。女性性のネガティブな面である「混沌(カオス)」な世界から、男性性である「秩序」ある世界への移行、というものです。アニミズム的自然崇拝を基にする女性性の世界には「混沌」だけでなく、すべてをあるがままに受け入れる「包容」や「生命の再生の重視」というプラス面もあるのですが、それを「秩序」や「理論」で文明化したというわけです。チベットの場合、この「秩序」をもたらしたのが仏教、ということなのでしょう。(ちなみに仏教は、チベットに到達する頃には男性優位の内容をもつようになっていました)
ガンポ王より時代は下りますが、ドゥクパ・クンレーが調伏した魔物の大半も魔女です。ドゥクパの男根に打ち負かされて改心した魔女たちは、その後仏教や行者の守り神となったとされています。 ← なんてわかりやすい筋立てでしょう!(笑)
以上、かなり自信はありますが、これはあくまでブータンの男根崇拝に関する私の解釈ですので、あしからず。
女性性と男性性の統合
男根崇拝に関する伝説は「女性性から男性性への移行」を表していると言える一方で、チベット仏教には「男性性と女性性の統合」をめざした理念と修行法も発達していたようです。実は私は、ブータンに行ったらその印・痕跡を見つけたいと思っていました。でもそれは予想に反してなかなか見つからなかったのです(まぁただの旅行者に見つけられるものではないのかもしれませんが)
ですからやっと二つの“印”を見つけた時は感動しました。でもこの話はまた別な機会に。もう少しチベット仏教の勉強をしてから書きたいと思います
最後にこちらは、ドゥクパ・クンレーを祀る寺院の小僧さん。ブータンでは9歳くらいで仏門に入る子供たちも多いのだとか。先輩小僧さんたちに怒られながらも、勤行に行く列を離れてポーズをとってくれました💛
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