エシカル・ファッション
更新日:2022年6月14日

私の知り合いにTさんという服のリフォームショップのオーナーがいます。彼女は魔法の手を持っていて、どんな無理なお願いでも叶えてくれます。この間は丈の長いジャケットをワンピースに直してもらいました。もうジャケットとしては着ないけれど素敵な布だったので、どうしても捨てられなかったのです。二人で「スカートはフレアー気味に」「丈の足りない分はウェストにサテンのリボンをかませて調節しましょう」などあれこれアイディアを出し合って形にしていくプロセスの楽しかったこと! 出来上がったワンピースが素晴らしかったのは言うまでもありません💛。彼女の口癖は「捨てるなんてもったいない。質のいいものはずっと着られるんだから。大事に着てあげましょ。」
またSさんという女性も、自分の経営するリサイクルショップに持ち込まれる古着をアレンジして新しい服にして売っています。違った襟やボタンを付けたり、袖の形を変えたりした服は個性的で、売れ行きも良いといいます。「でもね」と彼女。「最近の服は素材がぺらぺらでリフォームできないのよ」「だからウェス(工場の機械などを拭く雑巾)にまわすしかなくて」と嘆きます。
ファッション産業と環境問題
TさんやSさんがやっていることは服のリフォーム、リメーク、アップサイクルと呼ばれるものです。昔は普通に行われていましたが、ファスト・ファッションの拡大で服が安く買えるようになった今では あまり見かけなくなってしまいました。代わりにゴミに出される服の量は増えるばかり。世界では衣類の85%が焼却あるいは埋立てられているという調べもあり(a)、日本でも 服だけで毎日トラック130台分が焼却されているそうです(b)。
こうしたファッションの大量生産・大量消費・大量廃棄の問題は、環境問題が深刻化する中でやっと問題視されるようになってきました。実は「ファッション産業は汚染産業」という人がいるくらい環境への負荷が高いのです。原材料の栽培から製造の工程で膨大な量の水を使い、加工に使われる化学物質が川や海に垂れ流され、材料や完成品の輸送などで出るCO2の排出量も石油産業に次いで多い、などなど。
そしてもう一つ、ファッション産業は生産国の貧困問題と密接につながっているのです。
「安く」「たくさん」という呪い
たくさんのモノが安く買えるからくりは、大量生産・大量消費と、経済のグローバル化にあります。先進国の企業は生産コストの低い途上国でモノや食品を大量に作り、先進国で売るのです。今や日本の衣料品の98%は外国で生産されています(c)。
激しい価格競争にさらされている企業は、おカネのかかる環境保全や労働条件の整備にはあまり熱心ではありません。「安く、もっと安く!」という先進国の消費者の要求、そして「もっと売れ!」という企業の論理は、国際分業を通して途上国の人々を貧困に陥れ、また環境破壊をもたらしています。
ラナ・プラザ事故はその現状を世界に知らせることになりました。
衣料品づくりの現場
2013年、バングラデッシュで起きた8階建てのビル「ラナ・プラザ」の崩落事故は、死者1000人以上、負傷者2500人以上を出す大惨事となりました。

バングラデッシュはその安い労働力を武器に世界中のブランドの下請けをして、世界の縫製工場と呼ばれています。この老朽化したビルにも縫製工場が入っており、犠牲者のほとんどはそこで働く女性でした。
彼女たちは蒸し風呂のような作業場、暴力、納期を守るための長時間労働、賃金の不払いなどを強いられていました。他に仕事のあてがない彼女たちは、解雇をちらつかせる雇用主に逆らえなかったそうです。
さらにバングラデッシュでは、繊維工場や皮革加工から出る有害物質を含む排水が川に垂れ流され、深刻な水質汚染による住民の健康被害が起きています。

バングラデッシュの環境を破壊し、女性たちが必死に働いて作った服は、日本で数回着られただけでゴミになり、私たちは多額のお金とエネルギーを使ってそれを燃やしているのです。
エシカル・ファッション
そんなファッション産業のあり方を変えようとする運動が2000年代に入ってからヨーロッパで始まっていました。「エシカル・ファッション」と呼ばれるものです。「エシカル」とは「倫理的に正しい」という意味で、生産者を搾取せず、環境を害さない方法でモノを作ることです。
ファッションをエシカルなものにつくり替えようとするこの運動は、著名なデザイナーや有名ブランドが参加するようになって一気に拡がりました。一般ブランドと競える質とデザイン性をもつエシカル・ブランドが誕生するようになったからです。

この運動は衣料品の生産体制を変えるだけでなく、消費者の意識を変えることも目指しています。「少し高くても質が良く、自分が納得できるものを買い、長く使う」という消費行動に変えてもらおうというのです。もちろんリフォーム、リメーク、アップサイクルもエシカル・ファッションの運動のひとつです。
日本でエシカル・ファッション・ブランドが誕生するのは2010年代に入ってから。彼らは「チャリティーではなく、カッコいいと思って手にとってみたらエシカルだった」と言われるようにと、製品の質とデザイン性も上げようと努力を続けています。ピープルツリーやマザーハウスなど、ブランドの数は増え続けて健闘しています。
*国内外のエシカルファッション・ブランドの例はこちら → Ethical-Leaf
エシカル・ファッションは統合の経済
衣料品の買い手の8割は女性だと言われています。そのせいもあるのでしょうか。エシカル・ファッション・ブランドを立ち上げる人の多くが女性です。私が2015年に調べた時には日本のエシカル・ブランドの9割以上が女性によるものでした。このほかにも活発な発信や啓発活動、イベントの開催など、女性によるイニシアチブが目立っています。
一方、エシカル・ファッションに参加する男性も増えています。デザイナー、ブランド経営者、エシカル・ブランド専門の商社、廃棄繊維のアップサイクルを手掛ける企業家など、その関わり方は多様です。今後の展開が楽しみです。

男女にかかわらず彼らに共通するのは、「自然と共に」、「相手を思いやり」、「共生」の経済を築こうという女性性の問題意識です。そしてそれは「組織化」「経済性」などの男性性の意識と実行力によってビジネスとして成り立っています。
規模は小さくても、地球と他者との「共存共栄」を目指すエシカル・ファッション。私は女性性と男性性が統合した経済のひとつだと考えています
変われるか、男性性のファッション産業
環境問題に対する消費者意識の高まりを受けて、ファスト・ファッションの中にも、ユニクロや H&M のようにエシカルに舵を切ったと言われるブランドもあるようです。それ自体は大いに歓迎すべきことなのですが、売り上げ拡大戦略に変わりはなく、増加する原材料を調達するために増える環境への負荷はどうするのか、世界規模の輸送が必要な国際分業体制でCO2の排出は減らせるのか、など心配なことは多々あります。規模の拡大を掲げる男性性のビジネスの行方を注視していきたいと思います。
ファッション産業がエシカルに変われるかどうか・・・それは私たち消費者の選択次第でもあります。なかでも消費の8割を占めると言われる女性の役割と責任は大きいのではないでしょうか。
ファッション・ジャーナリストの生駒芳子さんは言います。
「誰かの犠牲の上に成り立つ美しさなんてあり得ない。そしてこれからはエシカルが文化にならなければ地球に未来はないのです」
***ファッション産業の環境負荷や現状についてはこちら
(a) ビジネスインサイダー www.businessinsider.jp/post-200862
(c) 繊維産業の現状と経済産業省の取組 200129_2seni_genjyou_torikumi. ...
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