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「生命を基本とする社会」

更新日:2022年7月15日


想像してみてください


自然の中に立ち、38億年の生命の歴史を共有する他の生きものたちとのつながりの中にいる自分




これを実感した時、あなたはどのように生きたいと思うでしょうか。あなたが生きるとはどういうことなのでしょうか。


これが生命科学者の中村さんが提唱する「生命誌」の視点(詳しくは前回ブログで)で人間社会を考える時の出発点です。中村さんはそれは、38憶年続いて今ここにある「あなた」というかけがえのない生命(いのち)を大切にいきいきと生きることだとして、「生命を基本とする社会」をつくることを提唱しています。



人間は機械ではない


現在の社会は「機械論的自然観(世界観)」で動いています。その中心価値はおカネ。科学技術も経済成長というおカネ稼ぎに役立つことを求められています。科学技術は自然(生きもの)を機械的なものと考え、自然を人間が操作できる対象として考えています。また私たちも科学技術を使って「簡単・便利」に暮らすことが進歩だと思い込んでいます。


この「簡単・便利」ということは「速い」「手が抜ける」「効率的」「決まり通り」ということ。けれどもこれらはみな生きものが苦手とすることばかり、と中村さんは言います。子どもを育てればわかりますが、生きものの世界は「それぞれのペースで」「手が掛かり」「無駄に見えるようなことをし」「みな違う」のです。人間は機械ではありません。他人と同じように、急いで、効率的に動くことばかり求められるのは生きものである人間にとって心地よくないのです。心や身体に不調が出るのも無理はありません。



このような、おカネ・速さ・効率性・規模を競い合う世界があたり前という考え方から一歩抜け出して、「生きものである自分が納得して生きようとした時に何が大事なのか」というところから考え直しましょうと中村さんは提案します。


ただそれは「自然に還れ」運動でも、「反科学・反技術論」でもないといいます。人間は道具を使う生きもので、技術は人間の生存のために必要なものです。ですから中村さんの提案は、今のように技術や道具に人間を合わせるのではなく、生きものであり自然の一部であるという立場に立って、まず「人間としてこういう暮らし方をしたい」というビジョンをつくり、その実現のために技術や道具を使おうということなのです。



生命を基本に社会を考える


生命を基本とする時には「生命」とは何かを理解していなければなりません。中村さんは、それはDNAやゲノムのはたらきだけで語れるものではなく、「生きもの感覚(感覚知)」による理解も必要だと言います。「生きもの感覚」は、生きることを大切にし実感する生活感覚や、周りの生きものたちが発するメッセージを感じとる感性です。もちろん「私は生きもの、自然の一部」と実感するのもこの「生きもの感覚」です。以下に紹介する中村さんの「生命を基本とする社会」は、この「生きもの感覚」で生きる社会です。


1) 人生の各ステージをいきいきと

中村さんは、子どもには子どもの、大人には大人の、シニアにはシニアの、それぞれ納得できる生き方・暮らし方があるはずと言います。子どもはいい学校・会社に入るための準備期間ではないし、大人はおカネ稼ぎをするために生きるものではないのです。


一人ひとりが自分の生命(いのち)を大切に思い、一生を通して自分らしくいきいきと生きる。これが「生命を基本とする社会」の基本です。


2)生活そのものが自然を生かし、生かされる状態になっている社会

美しい里山の風景

中村さんは言います。

自分が生きものであるという実感をもった時にみえてくる暮らしは、楽しく食べること、健康に暮らすこと、四季を楽しみながら住まうこと、美しい自然があること、様々なつながりを感じること、知識を得たり考えたりしながら心を豊かにすること。そうした実感は、自然豊かな地方の方が感じやすいものです。ビルや人工の光に囲まれ、おカネのために働いていると、生きものとしての感覚はわきにくいのです。


産業では、まず農林水産業、食品産業、医療(薬)が重要です。なかでも農林水産業は生きることに直結する最重要のもの。バイオテクノロジーなどを適切に使いながら、できるだけクリーンな農業を生活の基本として手元に取り戻すことから始めなければなりません。


さらに豊かな自然環境と地域のつながりがあること、教育や文化活動がしっかりしていることも重要です。なかでも子どもたちが「生きものとして生きる感覚」を身につけることができる体験的・実践的な教育(たとえば農業)、つまりビルの中にいたのでは決して得られない「身体ごと自然と向き合う」教育が必要です。



こう考えれば、都会ではなく地方の重要さがはっきりするでしょう、と中村さんは続けます。日本列島の北から南までそれぞれの地域の特性を大切にし、海や山を生かした暮らしを設計していくのです(たとえば里山)。そして、最新の科学技術を自然の征服・操作あるいは利便性にだけ注目して利用するのでなく、自然を生かす暮らしのために使うのです、と。



「生きもの感覚で生きる」自然と共生する社会


中村さんのお話を聞いて(読んで)いると、理屈ではなく生きものとしての自分の気持ちに素直になることが、自然と共生する社会づくりに必要なのだということがよくわかります。機械論的な生き方や考え方を求める今の社会の「常識」にとらわれず、自分の心と身体が求める「生きものとしての心地よさ」が生かされる社会づくりが求められていると感じます。(そしてそれはできるはずです!)


中村さんは、自然と共生する社会に必要になるのは「科学的な知識」とこの「感覚知」を合わせた「総合知」だと言います。そしてさらに、「この「感覚知」はメス的な感受性で「女性性」と言った方がよいもの。男性ももっているこの「感覚知」が、今後人類という種を支える大事な力となることは間違いないと確信している」と語るのです。


いまだに生命を遺伝子のはたらきだけで説明しようとする機械論的な考えが根強い生物学の世界で、中村さんだけが「感覚知」の重要性を見い出し、男性的手法の「科学的知」と女性的な「感覚知」を統合した生命の包括的な理解「生命誌」を紡ぎ出すことができたのは、中村さんが女性だったこともあるのではないかと思っています。


「感覚・感情」は女性的なものとして、「理性・合理性」という男性性を原則とする近代科学から排除されてきたものなのです。そして「包括性」も女性性だということを付け加えておきましょう。




  • 中村さんはたくさんの本を書かれており、読みやすい言葉で書かれたものも多くあります。代表的なものをご紹介します → 私の本棚(ブログ)

  • 中村さんが名誉館長をなさっている「JT生命研究館」は、生きものとそれを知る科学の面白さを伝えるための施設です。ホームページも楽しくわかりやすくできていますので、ぜひご訪問下さい → JT生命研究館ホームページ

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