「経済成長」という男性性①
更新日:9月21日
省エネ技術の開発や排出取引など、過去半世紀以上にわたる人類の様々な取り組みを無にしてきたもの・・・それはいったい何でしょうか。
結論から先に言いましょう。それは人類が「経済成長」にとらわれてきたからです。先進国も後進国も、地球のほぼすべての国が「経済成長」をめざしているために、環境破壊は止まらないのです。
「経済成長」とは「経済の規模を大きくすること」
日本語の「成長」が発展や進歩というようなプラスのイメージをもつために、なんとなく「望ましいもの」「しなくてはいけないもの」と思われている「経済成長」
けれども本当のところ、「経済成長」は「経済の規模を拡大すること」です。では経済の規模を拡大するとはどういうことでしょう?
「経済の規模」は通常GDP(国内総生産)で測られます。GDPを簡単に言うと、「一定期間に国内で生産され、市場で売られたモノとサービスの総額」です(それはモノとサービスの生産に関わった各企業・組織が得た利益の合計と同じです)。GDPが大きいということは、それだけその国の市場で活発にモノやサービスが売り買いされ、大きな利益が生まれているということです。
「経済成長」とはこの「市場で売られた金額の総額」が増えていくことを意味します。つまり、去年100億円売り上げたなら今年は100億円より多く売るということです。
さて、毎年毎年売り上げを増やしていくためには、ほとんどの場合「もっとたくさん売る」ことが必要になります。つまり「経済成長」をめざすということは「去年よりたくさん売る」、消費者側から言うと「去年よりもっと買う(お金を使う)」ということなのです。
このようにモノやサービスの取引額を増やしていく「経済成長」のもとでは、年々モノは豊かになります。旅行や豪華な外食のようなサービスの選択肢も増えます。いいことずくめに見えますが、なぜこれが環境破壊の原因となるのでしょう。
「経済成長」が自然環境を壊す
① 資源は有限
「経済成長」のためには多くの新しいモノを作り出さなくてはなりません。それには原材料が必要です。たとえば紙や家を作るために森林が伐採され、車を作るために鉄鉱石やアルミニウム(ボーキサイト鉱石)が掘り出されます。工場を動かしたり電気をつくるための石油、天然ガス、石炭も必要です。とにかく世界中の国が物質的豊かさを求めて「経済成長」路線を突っ走っているのですから、その需要を満たすための原材料とエネルギー資源は膨大な量になります。
そうでなくても鉱石や石油などの地下資源を掘り出す際には大きな環境破壊が起きることが知られています。けれども「経済成長」で需要が増えた結果、掘り出しやすいところの資源はとうになくなり、より深いところ、取り出しにくいところから調達されています。このため一層激しい環境破壊と汚染が引き起こされているのです。
現在各国が開発にしのぎを削っている省エネ技術や代替エネルギーも、それを実用化する時には材料(資源)が必要です。どこからもってくるのでしょう? 主要な金属資源のほとんどは今後30年を待たずに枯渇すると予想されているのです。資源をめぐる紛争も当然増えるでしょう。
資源が枯渇していく中での「経済成長」は不可能なだけでなく、資源の確保に伴って進む環境破壊も深刻なのです。
② おカネがかかる環境対策
少しでもたくさん買ってもらうには商品の値段を安くしなくてはなりません。値段は上げにくいのですから、利益を上げるには生産コストを抑えるしかありません。
し烈な競争をしている企業にとっておカネのかかる環境対策は、できるならやりたくないことです。
日本では高度成長期に深刻化した環境問題を受けて厳しい環境規制が導入されました。環境対策におカネがかかると海外の安い製品に太刀打ちできなくなってしまうことを恐れた企業は、次々と人件費が安く環境規制が無いか緩い発展途上国に工場を移転させました。その結果、日本の環境汚染は減りましたが、海外ですさまじい環境破壊が続いているのです。(生産コストが安い国に工場を移転しているのは、もちろん日本だけではありません)
付け加えるならば、この「コストを抑える」という圧力は現地で働く人々の賃金や労働条件をできるだけ低く抑えようとする作用ももたらします。
③ 増え続ける廃棄物
モノやサービスを買い続けてもらうために人の欲望をいくら煽ったところで、人が消費できる量には限界があります。その結果クローゼットには着ない服がたまり、家の中は不要品であふれることになります。大量生産・大量消費は大量廃棄に行きつくのです。
同じように、「経済成長」を続ける限り、モノを作るために稼働する工場から出る有害物質や二酸化炭素も増え続けます。旅行や貿易が増えれば飛行機や貨物船から出る二酸化炭素が増えるのも当然です。二酸化炭素の排出量は世界の経済規模の拡大とともに増え続け、今日の地球温暖化の主原因となっています。
現在先進国では「脱炭素」をめざし、二酸化炭素を出さないエネルギーへの転換や技術革新を模索していますが、モノやサービスを増やし続ける「経済成長」路線はそのままですから、地球規模で成果が出るのは相当先でしょう。それまで地球がもつ保証はありません。
「同じ量を生産するのに必要な資源の量」を減らす技術革新は間違いなく必要です。けれども同時に「生産する量」自体も減らさなければ、材料やエネルギー資源の必要量は簡単には減らないでしょう。
資源の量には限りがあります。残された少ない資源は、必要最低限のモノにもこと欠く途上国に回さなくてはなりません。先進国にはすでに十分すぎるほどのモノがあるのですから、今後は量より質の豊かさをめざしていくべきでしょう。
ただそれを難しくしているのが「経済成長」という呪縛なのです。
→「経済成長」という男性性② に続く
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